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長期的に「異文化」で成功するためのロードマップ

パート2
2015年8月

私たちはこれまで、グローバルに展開する企業を顧客として、世界中で広範なサービスを提供してきました。そうした経験を通して、国境を越えてアサインされたリーダーの成功および失敗の主な原因についても、その知見を深めています。

加えて、この度、海外でのリーダーという役割にうまく順応できた25人のグローバルリーダーへのインタビューを通して、多くの共通した示唆を得ることができました。キーワードは、「異文化アジリティ」です。

そこで本稿では、1)異文化アジリティを有するリーダーをどのように識別するか、2)会社と個人の双方が、クロスボーダーでの任務およびその後の長期的な成功をいかに確かなものとするか、について考察します。

なお、本稿では、「異文化アジリティ」を、異なる文化的文脈や環境において、異なる文化的背景からなる人々と効果的に仕事をすることができる能力として定義しています。


「異文化アジリティ」は、適切なツールを持つ経験豊かな専門家によって見極めることができるものだろう。そこで、スペンサースチュアートでは、コンサルタントやアセスメントの専門家の使用を目的とした複数のツールを開発した。

しかし、異文化アジリティを形成する主要な能力、すなわち異なる文化的背景(あるいは文脈と言ってもいいが)を持つ人々とうまく協働する能力について理解し、そうした能力を持つリーダーを選抜することは、方程式の一部に過ぎない。

多くの場合、アサインメントに足る候補者が少なく、彼らには確かに異文化アジリティのいくつかの要素はあるとしても、すべての要素を持つ人は稀だ。たとえ異文化に対応する能力のギャップがあっても、あるいはある候補者が理想的にフィットしていると思われても、移行プロセスと言える適切な準備期間の存在が重要になる。採用担当者、人事のリーダーや役員が協力して継続的な異文化アジリティ開発を準備して初めて、海外アサインメントは文字どおり成功する。

異文化アサインメントの成功のために:組織としてできること

海外アサインメントの成功は、役割への期待から本社の体制変更まで、多くの側面に影響を与える。そのため、個々のリーダー自身のためだけでなく、組織全体として異文化アジリティを高めるためのアクションを採る必要がある。

全体的なアプローチを取る

私たちは、人事部門のリーダー、赴任者の上司、経営陣が、3-5年の中期計画を立てる際に、海外アサインメントのさまざまな側面について、以下のような質問に対する答えを明確に用意することが極めて重要であるということを見出した。異文化アジリティをさらに開発する必要がある場合、これらの質問は、特に重要になる。

その役割における成功

  • 新しい役割の成功を図るための長期的な尺度は何か? たとえば、新しく現地にアサインされたリーダーは、赴任期間が終了したときに後継者となるべきローカル人材を見出し、時間をかけて育成することが期待される、など。
  • リーダーが以前の役割で直面していたリーダーシップ上の課題は何か?これらは、新しい役割においても持ち越される可能性がある。たとえば、情報の共有について極端に慎重であることは、国内の指導的役割では対処可能な問題に留まる可能性があるが、海外のアサインメントでは致命的な場合がある。

仕事と人生のバランス

  • 家族にとっての目標は何か? 
  • 家族として、海外で過ごすことのメリットをどうやって最大限に活かしていくか?

本社に関して

  • 本社とのコミュニケーションや関係をどのように維持するか?
  • 物理的に本社にいない中で、情報の輪の中に居続ける方法を見つけることが重要である。

帰任への移行

  • どのように会社はリーダーが帰任する準備を支援するか? 
  • 帰任後に、より効果的な仕事をするために、海外経験から学んだことをどう活かすか?

正式なプログラムを作成してコミュニケーションする

異文化アジリティを有するリーダーは、その人自身が良い参考例となるが、会社としてはより幅広い範囲で異文化アジリティを開発するために、意図的な戦略が必要となる。しっかりとした育成プログラムは、現有のリーダー人材の異文化アジリティを高めるだけでなく、外部からの招聘のための強力なツールとしても役立てることができる。

加えてグローバル企業は、リーダーたちが自社に海外アサインメントのためのしっかりとした評価・育成プログラムが存在していることをちゃんと認識しているかについて確認する必要がある。クロスボーダーのアサインメントが高い優先度をつけられているにも関わらず、私たちの調査では多くのリーダーは自社が海外アサインメントのための評価・開発プログラムを提供していることを知らなかった。

異文化アサイメントの成功のために:リーダー個人にできること

海外アサインメントは、個人的にもプロフェッショナルとしても、大きな出来事だ。成功したリーダーは、その経験を自分のものとし、そこで得た経験を宝物として大切にし、その後のキャリアに活かしている。

最初の100日を大切にする

リーダーが着任後に組織内に適切な第一印象を作ることができれば、残りの赴任期間を良い形で過ごすことが可能になりやすい。

最初の100日間の過ごし方を間違えなければ、自信を持って自身と組織のメンバー、さらに自分の家族が過ごすべき残りの期間の方向性を設定することができる。

リーダーは、可能な限り迅速にローカルビジネスの常識を学ぶことも重要だ。商取引上のマナー、交渉のスタイル、ビジネス顧客がどのように購買の意思決定を行うか、はたまたビジネスミーティングのプロトコルなどは、母国とはかなり異なる場合がある。それらについて、学んでいく必要がある。

さらに言えば、現地における各種規制や政府の政策は変化し続ける。複数の国や多部門にまたがる組織では、それぞれの実態は、異なる文化的規範を有しているかもしれず、各々の経済発展に応じて大きく変化し続けている可能性もある。

したがって、現地の同僚から早い段階で助言を得ることが鍵である。

ある人事リーダーは、米国から香港に転勤してAPAC地域の人事部門を率いた。海外生活は初めてだったが、学ぶことに対してアグレッシブで、「リーダーは、海外アサインメントという機会には冒険心とオープンな心と学習意欲をもって接するべきだ」と言う。彼の元上司によれば、彼は現地の他のリーダーたちに頼んで、1時間単位の「個別指導」をスケジュールに組み込んで、アジア各国の異なる経済や文化について学んだそうだ。彼は知らないことについて率直に知らないと言い、その知らない部分を開けっ広げに補い、助けてもらうように頼んだ。1年後には、彼は現地の文化についての知識の骨格を備え、ビジネス上の課題解決のために柔軟に、各国の文化に合った形でアプローチできるようになっていた。そして、その後、よりグローバルな企業の人事トップに転身している。会社としては、このような教育プログラムやミーティングを奨励したり、計画に組み込むことによって、赴任者が駐在の最初の段階で全体観を学べるようにもできるはずだ。

キャリアの全体像について考える

海外に駐在するリーダーは、自身のキャリア全体において海外駐在がどのような役割を果たすかということにしっかりとフォーカスすべきだ。彼らは、特定のマーケットの専門知識やマネジメント経験を積むことなどによって、リーダーとして成長し、発展するためのチャンスになるとして駐在を受け入れたはずだ。したがって、毎日の時間の制約の中でプレッシャーと戦っているうちに、本来の目的である経験を積まずに駐在期間の終わりを迎えるということのないようにしなければいけない。

経験を最大限に活かす

海外アサインメントにおいては、キャリア以外の効果も特筆に値する。海外赴任から個人的に恩恵を受けたかどうかを尋ねたところ、25人のグローバルリーダーの意見は驚くほど一致した。一人のリーダーは、子どもをインターナショナルスクールに送ることで、彼らが一生にわたってグローバル市民になったと語った。もう一人は、異国の地で数多くの刺激的な経験を共有することで、結婚生活がより強固になったと話してくれた。

帰国というチャレンジに向けて準備する

帰国するリーダーの中には、母国に再び順応することに困難さを見出すケースもある。あるリーダーは帰国した彼らは元の部署ではなく、新しい部署に所属させたほうがいいと助言する。なぜならば、異文化を経験していない同僚とは、共有するものが限られてしまうからだ。

アジアとロンドンに赴任していたサンパウロ出身のグローバルリーダーは、「もちろん、まだサンパウロ時代の友人との交友もあるが、本国から離れたところで働いた経験のある友人と共有するもののほうがはるかに多い」と教えてくれた。

異文化アジリティを将来のキャリア・チェンジに活用する

異文化アジリティのパラダイムは、業務内容や業界のシフトなど、大胆なキャリア・チェンジに利用することも可能だ。セールスからマーケティングへのシフトはそれほど大きなジャンプではないが、財務や人事など管理部門から経営にシフトするのはより大きな飛躍で、よく計画したキャリアプランが必要になる。このようなジャンプをする際には、異文化アジリティの5つの能力を適用することを検討すると、役立つ場合がある。

  1. 好奇心 :新しい役割や業界を学びたいという欲求
  2. リスク・テイク :劇的な動きでチャンスをつかみ取る能力
  3. 自己認識と調整 :自分の強みと弱みを認識し、新たな状況に適応する能力
  4. 新しい環境についての知識 :知識と洞察力がどれだけ時間をかけて習得されるかについての理解
  5. サポートシステム :変化やストレスに対処するための強固な土台(すなわち、家族、友人、その他の環境的な要因)を持つ

結論

海外アサインメントは、個々のリーダーと組織の両方にとってとても大切なものだ。本稿で解説したように、異文化アジリティの高いリーダーを選出することが不可欠だが、それだけではなく、対象者を選出したら、その成長を支援し続け、会社全体の異文化アジリティを高めることに注力しなければならない。

リーダー自身と、採用担当者や人事のリーダーの間のコラボレーションとオープンな対話によって、海外アセスメントの長期的な成功をもたらすことができる。

会社がシニアリーダーの「異文化アジリティ」をいかに特定するかについて探るパート1