CEO就任前の基盤作りという意味においては、メダリスト同様に事前に準備を進めることが可能ではあっても、経営幹部の誰もが同じようにこれを達成できるわけではない。将来CEOを承継する人物の卓越した強みと成長機会は、この「ラストマイル」での経験および、これに付随する優先事項、メンタルモデル、ステークホルダーとの関係性に左右される。CEOは日々経験を積み重ねているが、後から振り返ると、物事の複雑性やニーズの増大に伴って、自身の能力開発に集中することが劇的に難しくなったことを実感するのだ。この意味においてCEO承継前の「ラストマイル」とは、最も重要なレースに向けた事前準備の最後のチャンスである。
経営幹部に共通する課題を理解していると、自身の可能性を最大限に引き出し、有利な立場に立つことができる。スペンサースチュアートにおけるCEOライフサイクル研究の一環として、1,300件以上のCEO承継案件を調査し、各人の過去の経歴からCEOとしての成功確率予測を導き出した。また、企業のCEO承継プランの一環として実施した、100名以上の経営幹部への能力開発に関するアドバイスを分析し、各職位に共通するテーマを特定した。さらに、現在成功を収めているCEOに対し、これまでの道のりにおける重要な学びについてヒアリングするインタビューを実施した結果、驚くべき傾向が明らかになったのである。
*市場調整後の総株総利回りより算出
この20年間で最高執行責任者(COO)、事業部門長(DCEO)、最高財務責任者(CFO)のほか、経営トップの2階級下に相当する職位から昇格した「飛び越し型」リーダーの4職位が、新任CEOの85%にとっての「ラストマイル」に相当する。この中で、同僚を凌ぐ業績を上げるトップ・パフォーマーとなる可能性が最も高いとされたのが「飛び越し型CEO」であり、反対にこの確率が最も低いとされたのが、元CFOの新任CEOであった。一方で、業績不振回避のために最もリスクが低い候補者とされたのが、事業部門長であった。
ここでいう確率とは絶対的な「宿命」ではない。CEOの中には、経歴・業界を問わずオーバーパフォーマーおよびアンダーパフォーマーが存在するのである。実際 に成功を収めたCEOの特筆すべき特徴は、その自己認識であり、自身の可能性を最大限に発揮しようと努める献身的な姿勢であった。これは、CEO就任のためのみならず、その後の活躍に必要な要素である。
CEO就任の確率・ノウハウへの関係者の理解が深まると、従来の取締役会、CEO、CEO候補者間の対話の内容は大きく変わるであろう。つまり、取締役会は、選出した新任CEOの就任初日の「完成度」よりもむしろ、長期的な価値の創出に向けた施策に目を向けるようになるだろう。こうなるとCEOは、自身の後継者を念頭に、企業として多様なリーダーシップのパイプラインを構築し、能力開発プログラムによる育成を進めることで、社内に十分な人材プールがあると取締役会が確信を持てるような環境を整備することができる。最も重要なこととして、CEO候補者が自身の昇格のみならず、CEOとしてのパフォーマンスの最大化を視野に入れることができるようになる。
*COOを基準として比較
逆境を乗り越える:いかに可能性を発揮するか
CEO職務の複雑性・難易度が一層増す中、CEOへの「ラストマイル」とされる職位は、この究極のレースが始まる前に、将来、CEOとしてのパフォーマンスの足枷となり得る課題を解決する最後のチャンスである。我々は、CEOを目指し逆境を乗り越える人々を支援すべく、CEOへの主な4職位において、さらなるパフォーマンスを発揮する領域として最もよく見受けられるものを調査した。
COO:人々の心をつかむ
一口にCOOと言っても、その職務内容は組織により多種多様である。戦略的な役割を担い、大規模な改革を牽引するケースがある一方、CEOが長期的な課題に集中できるよう、組織運営および四半期ごとの業績達成の責任を担うケースもある。また、CEOの後継者候補が、「最後の仕上げ」の職務としてCOOに任命され、企業全体やステークホルダーへの露出増加を図るケースもある。
CEOに昇格するCOOには、複雑な事業運営を取り仕切りながら、企業としての展望および戦略的な優先事項への造詣を深めることができるという利点がある。COOの職務はその権限や責務によって異なるものの、共通しているのは、組織内での高い認知度と広範囲に渡る業務遂行能力だ。COOとしての成果実現にプラスに作用する重要な能力としては、行動志向および、効率性を追求する目がある。COOがCEOに就任すると、自社についての幅広い知識と実行推進を志向するマインドセットをもって業務活動を指揮することができる一方、チームや組織、他のステークホルダーを巻き込むことの必要性を十分に理解していない可能性がある。また、当四半期の業績と戦略の実行にばかり目が行き、長期的な戦略立案がおろそかになってしまうこともある。
CEOとして他を凌ぐCOOは、その「ラストマイル」となる経験を活かして組織内に幅広いフォロワーシップを構築している。CEOとして多様なステークホルダーの視点・考え方を理解しており、共感や謙虚さといった特性を活かして、人々の心をつかむようなコミュニケーションを図っているのである。特定のタスクを達成すべく直接絆を深め、戦略やパーパスに沿った実行のためにコミュニケーションに磨きをかけて心情的にも繋がるのだ。また、職務上要求される以上の戦略的・商業的志向を身につけようとしている。
潜在能力を発揮する:COOのための3つの機会
組織横断的な
フォロワーシップの確立
- より多くの従業員に見える形で、課題解決への意欲、謝意を伝える
- 業務以外・チーム外の人間関係に時間を割き、他者とのつながりを深める
- 自身の弱さを周囲に見せることで、自身の人柄に対する理解を促す
ビジョンを掲げた
組織牽引
- 長期的な視野に立ち、戦略や将来の方向性に沿って実行する
- ビジョン・戦略的優先事項・マイルストーンを明示し、繰り返し訴えることで、連携・エンゲージメントの強化を図る
- 組織の目標・文化・価値観強化のため、経営陣の協力を求める
戦略的発言力の
強化
- 戦略的課題を具体化すべく(財務など)コーポレート機能への露出機会を増やす
- 様々な地域・市場に滞在し、文化的機微への理解を深める
- 経験豊富なリーダーから、CEOとは異なる戦略的な発言力を学ぶ
事業部門長:企業全体の視点を取り入れる
事業部門長、プレジデント、その他の事業責任者には、地域、製品、販売チャネル、サービスラインにおけるPL責任を負う、幅広いリーダーシップの役割がある。彼らの複雑な組織の統率能力はすでに証明されており、CEO直属の経営陣の一員として、組織の収益拡大に絶大な影響力を有しているのである。
事業部門長は多大な影響力を有する職位である。事業部門長は、その権限により組織内の活動を指揮し、他のリーダーと競いながら事業のためのリソースを獲得することには精通している。成功する事業部門長というのは事業の成功のみに注力する、つまり、自部門の収益拡大を推進しながら、将来的な成長に必要なリソースを指揮しているのだ。しかし、こうしたアプローチは、CEOとしての能力を制限してしまうことがある。例えば、当社のクライアントである事業部門長は、自ら指揮を執り、チームに責任を持たせることで、スピード感を持って効果的に事業の成果実現を推進した。しかしこのCEOには、忍耐力・柔軟性の欠如、他者の意見を取り入れることに抵抗があるといった欠点があり、これらを感じていた同僚からサポートを受け、共に計画策定を行うことはできなかったのである。また、別の事業部門長は、スピードを重視するあまり、先回りしてチーム内の反対意見を封じ込めたという。成功 するCEOは、自ら陣頭指揮を執りたいという衝動を抑え、代わりに健全な議論と共創を促す心理的安全性が担保された組織文化を醸成し、優れたパフォーマンスを発揮するチームを育成する。そのチームは、共通のビジョンに基づいて協働・協調しながら物事を実行していくのである。
事業部門長にとって、ビジネス、資源配分、経営陣の課題についての視野を広げることが、すなわちCEO就任後の成果実現への準備である。自部門から見て正しいことが、組織全体にとっても正しいとは限らない。自身のリーダーシップスタイルの変革に着手し、積極的な傾聴の姿勢のほか、他者が意見を述べたり異議を唱えられるような環境を整備することで、より包括的かつ協調的な組織が構築できる。また、自身の言動の他者への影響に対する理解を深め、その影響力を高めることもできるのである。
潜在能力を発揮する:事業部門長のための3つの機会
企業リーダーシップの構築
- 相互依存関係の理解、信頼関係構築のため、全社プロジェクトに自ら参加する
- コーポレート機能の価値・課題への理解を深める
- 企業レベルでの戦略的考察のためのゆとり・時間を設け、企業課題にコミットする
全方位的な組織牽引
- 自己認識を高め、自身の言動の他者への影響を理解する
- ネガティブな情報への反応を控えめにし、感情的に反応してしまうような場面に留意する
- 達成志向が異なるメンバーを繋ぐべく、動機付けの手法を複数探る
オープンな対話の奨励
- より早い段階で、戦略の分析・策定に他者を巻き込む時間を捻出する
- 傾聴の姿勢で様々な考えを学びながら、他者が協調して意見を述べる・異議を唱えられる環境を整備する
- 他グループの成功には、それが自部門の課題と相容れない場合であっても祝福する
CFO:数字を超えたコミュニケーション
CFOは、取締役会と直接の接点があり事業戦略および財務にも精通しているため、CEOの後継者候補となることは自然の流れであるだけでなく、「緊急時」の後継者候補でもあることが多い。彼らは投資家の視点を有し、ステークホルダーとのコミュニケーションにも長けていることが多い。企業によってはCFOが、M&Aを始め、買収・売却および将来的なビジネス形成に関する戦略的な意思決定において重要な役割を担っている。
CFOには財務的に保守的な傾向があるが、会社の数字が上向き、投資家や規制当局と揉めないようにすることが職務である以上、それはむしろ長所といえる。しかし、今日のような変化の激しい市場を考慮した場合、CEOというものは、負けを回避するためにプレーするのではなく、勝ちを掴み取るプレーをしなければならない。CFOはこの意味において、コミュニケーションや意思決定に際して、数字・分析に過度に依存していることがある。また、指標を重視するあまり、FTE(フルタイム換算)と潜在能力との境界が曖昧になることもある。数字に強く、論理的で、的確な分析ができることは重要な能力ではあるものの、成功するCEOは、特に不確実な状況に直面した際には、より広い視野で意思決定を行い、その聴衆に対応するメッセージを発信しなければならない。
CFOから昇格したある優秀なCEOは、CEOとしてCFOの職務も担うことのリスクについて、「新任CEOにもかかわらず、CFO業務にも多くの時間を割くことになってしまう。というのも、真に有能な後継者を任命して『店』を運営させ、自分がかつて行っていたことを実行させるのとは違うからだ。本来は他の職務にも多大なエネルギーを注がなければならない」と述べている。CEO として成功している元CFOたちは、成長を促進しリスク許容度を上げる方策を見出し、キャリアの早い段階で経営に携わった経験から組織に対する視野を広げ、職能の幅を広げている。また、重要なビジネス上の意思決定や業務上の問題には必ず関与し、時には事実上のCOOのような役割も果たしている。意思決定に際しては分析と全体的な視点をバランスよく考慮し、コミュニケーションにおいては詳細な分析よりもビジョンや全体像に言及しながら、これに対する聴衆からの感情面での反応も想定しているのである。
潜在能力を発揮する:CFOのための3つの機会
経営経験・ビジネスへの露出機会の獲得
- 財務機能を超えた業務経験を積み、ビジネスを牽引する(例:イノベーション、PL責任)
- 組織横断的にフォロワーシップを引き出すべく、さらなるリーダーシップをとる
- 財務リーダーたちの優秀なチームに権限委譲し、会社全体を俯瞰する視野を身につけさせるとともに、事業課題の解決に近づける
理論と感情のバランス
- 詳細な分析・裏付けとなる事実に言及する前に、全体像にフォーカスしてアイデアを引き出し、目標を明示する
- 財務的な慎重さを抑制すべく、不確実なデータや、過去の基準がない新たな概念を模索し、適正なリスク許容度を明らかにする
- 意思決定の「理由」により多く言及し、事実とストーリーをバランスよく織り交ぜたメッセージで聴衆の関心を喚起する
人材育成
- タレントマネジメントおよびコーチングの仕組化・体系化を促進する
- チームメンバーがギャップを解消し強みを活かせるよう、支援に割く時間を増やす
- IQとEQによる組織牽引でメンバーのモチベーションを高め、さらなる主体的な努力を引き出す
どうそこへ到達したのか : CEO就任の確率が最も高いのは、事業部門長およびCOOである
COOはかつてCEOへのほぼ唯一の道とされた職位であり、2000年代初頭にはCOOから新任CEOへの就任率は76%に上った。1990年代に、企業が総合的品質管理(TQM)やカイゼンといった経営トレンドを取り入れる中で社会に浸透してきたCOOには、複雑な運営管理の経験があり、組織を全方位的に理解していることから、CEO後継者と見なされることは理にかなっていると考えられていた。しかしこのあと、COOからCEOへの就任確率は、2020年の38%にまで低下し続けたのである。
2000年代初頭より、ビジネスおよびリーダーシップはともに大きな変化を遂げ、これに伴いCEOの経歴も確実に多様化の傾向にある。今日の組織ではフラット化が進み、市場競争が激化する中で徹底的な顧客優先を実践する必要性に迫られている。組織の権力は機能部門から事業部門へと移行し、CEO候補者となるには、すべてのPL責任を負った経験が必須である、というのが現在の風潮である。このような変化の中で、事業部門長がCEO候補者の人材プールとなったことは必然と言えるであろう。2000年に就任したCEOに占める元事業部門長の割合は25%強で、以降この傾向はさらに顕著になり、2020年には36%を占めるまでになっている。
CEOの右腕または相談役であるCFOは、優れたビジネス構築に必要な財務レバレッジの豊富な知見を有していることが多く、多くの企業、とりわけ資本集約型企業においてCEOの後継者と見なされることは理にかなっていると言える。実際に、2020年に就任したCEOの9%を元CFOが占め、この割合は2000年代前半の2倍に相当する。世界的な金融危機ののち数年間は、CEOに任命されるCFOが減少傾向にあったものの、以降その割合は回復傾向に転じ、2020年にはCEO後継の3番目に該当している。
2000年代初頭から、「飛び越し型CEO」は比較的少数ながらも安定したCEO後継者の人材プールがあることを示している。取締役会は、そのフレッシュな思考と視点が経験不足を補ってくれることを期待しながら、高い潜在能力を有する経営幹部のタイムラインを早めている。「飛び越し型CEO」をCEOの人材プールと考えた場合、これに伴い「人材供給問題」が発生する。それは、シニアリーダーシップチームより下位の人材層の、資質およびCEO後継者としての完成度を把握するために、確立した人材能力開発およびスクリーニングプロセスが必要となるためである。
S&P 500社における新任CEOの経歴(単位:年)*
*当該年の全CEO承継のうち、他社CEOからの直接就任のケースを除いた割合
「飛び越し型CEO」:長期的な人材育成
経営陣よりも下の層に属する高業績なリーダーは、経営陣や取締役会への露出機会が限られているため、自分がCEOになるチャンスはないと考えてしまうかもしれないが、当社のデータでは、この「飛び越し型」候補者が他の役職よりも多く取締役会からCEOに任命される年もある。「飛び越し型」候補者が取締役会の目に留まる傾向は、組織内により早い段階からスタートする確固とした後継者育成プロセスがあり、これが組織の隅々まで浸透しており、候補者の経験値よりもむしろ潜在能力を重視する場合に強くなる。要するに、経営陣の直下で重要な職務を担うリーダーには、CEOとして成功する可能性があるのだ。
「飛び越し型」候補者は、米州地域消費財担当副社長などのように、大規模な事業部のリーダーであることが多い。彼らはCOO、事業部門長、CFOとは違い、CEO直属の経営陣のメンバーではないため、担当事業の業績に対する幅広い責任を負ってはいるものの、事業部の外の事情にはあまり明るくない。また、社内の職位はそれほど高くないため、取締役会、投資家、その他の重要なステークホルダーへの露出機会も少なくなりがちである。しかし、このようなリーダーでも、CEOとして大きな成功を収めることができる。当社のクライアントであった、ある「飛び越し型CEO」は、より広範囲に亘るリーダーシップチームのアセスメントを通じて後継者候補となった。最終的にCEO就任を果たし、その真のリーダーシップ、文化的適応能力、専門的な知見、ビジョン、批判的思考力、自己認識力などが評価されたためであり、在任中に自社の株価を2倍にし、時価総額を50%近く上昇させたのである。
こうしたリーダーは長期的な視野を持つことで究極の人材となり得る。まだCEOの座を狙えるとは思っていなかったとしても、次の職位やさらにその先で成功するために自身が成長するのだという考え方ができるからである。「飛び越し型」経営人材は、その職務のスケール・複雑性という意味において、CEOを目指す上で一番大きな飛躍を遂げなければならない。
「飛び越し型」候補者は、スキルアップのスピードを加速させるべく、信頼する同僚からリーダーシップに関するフィードバックを定期的に得ながら、ESGやDE&Iといった取り組みや、新たなプロセスの導入、他の戦略的優先事項などの全社的な活動に自主的に参画し、機能・事業部門の相互依存関係への理解を深めていかなければならない。このプロセスを経て、飛び越し型の候補者はその影響力を増大させることができるのだ。新進気鋭のリーダーに対して社外ステークホルダー(例:アナリスト、投資家、取締役)への露出機会を提供するなど、特定の育成機会をリーダーシップが確約することで、その成長度合いは大きく変わってくる。
潜在能力を発揮する:「飛び越し型」候補者の3つの機会
ステークホルダーマネジメントスキルの強化
- 取締役会の公式な会合と関連活動において、取締役会との交流機会を模索する
- より複雑かつ政治的な案件を数多く手がけ、対人能力を磨く
- 外部のステークホルダー(例:アナリスト、投資家、業界ネットワーク)との接点を増やし、異なる視点への理解を深め、影響力の強化を図る
ネットワークと支持基盤の構築
- 全社のシニアリーダーとの関係に積極的に関与し、彼らに助言し、相談に乗り、メンターの役割を果たす
- 経営幹部のミーティングに積極的な姿勢で参画し、自身の知見を発揮する
- 自身の言動が周囲の目にどう映るのか考慮しながら、自身のリーダーシップブランドを確立・発信する
複雑性への対応能力の増強
- より大きなリーダーシップを発揮すべく、ロールモデル的な役割に終始することなく、権限委譲するリーダーたちの育成に注力する
- 新たな・複雑な職務を担う際には、スキルアップのスピードを加速させるべく、信頼する同僚にフィードバックを求める
- 全社の機能・事業部門の相互依存関係への理解を深める
成功のための条件整備
CEO承継は、どのケースも複雑かつユニークなプロセスであり、CEOの成功は様々な要因に左右される。例えば、対象者がどれだけ準備してきたか(フィードバックを求め、新たなチャレンジとなる役職を引き受ける意欲など)、また、彼らの能力とスタイルがどれだけその役職の要件に合致しているか、などである。これらの条件の多くは、その効果を発揮するまでに何年もかかるものであり、影響力を発揮するための重要なコミットメントとなる。また、CEOの成功への他の要因として、CEOが自身の周囲にいかに強固で力強いチームを構築するか、そして取締役会、退任するCEO、CHROから受けるサポートなどが挙げられる。
人材を重視する組織は、有望なCEO後継者の多様で強力なパイプラインを構築し、将来のリーダーが経営陣としての職責を果たす備えとして最適である。また、意図的に育成を図ることにより、リーダーシップパイプラインの多様性を高めることにも繋がる。例えば、あらゆる職位において女性の割合が圧倒的に少ない中、COOや事業部門長に占める女性の割合は4%と、「飛び越し型」CEOや昇格したCFO(10%)に比べてさらに低くなっている。性別によるパフォーマンスの差異は見られないものの、CEOへの主だったキャリアパスにおいて、女性にはまだ男性と同等のアクセスや代表権がないことが見て取れる。
将来のCEO育成のために最適な役職という観点から、組織というものをより広い視野で考えることができる。CEO後継候補者の誰もが、最も複雑な部門や最大規模の部門を牽引していなければ、CEOとしての準備が整わないというわけでもない。組織のより深層に目を向けることで選択肢が広がり、これまで認識されていなかった優秀な人材がスキップレベルの選択肢として発掘されることも少なくない。予測不能で変化の激しい環境で兆候を読み取り、迅速に行動することが求められる成長率の高い部門は、リーダーシップの規模と能力を測るもう一つの試金石となり得るのである。複雑性への対応から影響力の促進まで、リーダーシップの効果的な試金石の期待値を変えることで、優秀な人材の能力を試す上での選択肢が広がり、ひいては、これまで過小評価され選択肢に入らなかった可能性のある有能なリーダーへのアクセスも増加する可能性がある。
最後に、人材育成を最も効果的に実践している組織は、最も有能なCEOには、多様性を備えたパフォーマンスの高いチームの存在があり、彼らがCEOのスキル・知識のギャップに対処し補完しながらその成功を支えていることを理解している。早期に確固とした後継者育成計画をスタートさせ、広くアンテナを張り、チームの承継および新任CEOとその周囲のチーム双方の能力開発に焦点を当てた、しっかりとした後継者育成計画を実施することで、CEO後継の有力な候補者を社内から輩出できるのだ。また、新任CEOの成功に不可欠な、リーダーの幅広い育成を加速させることもできる。取締役会 が、トップチーム、取締役会、外部アドバイザーなど、成功を支える人材のエコシステムという観点で考えることの必要性が増している。
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CEOの職務はこれまでになく複雑かつ過酷なものになっている。この難しい職位において優れた業績を上げる人材は、自己認識と学習志向を養い、その強みを磨き、真の潜在能力を発揮するために、自身の「ラストマイル」における経験がいかに価値のあるものかを認識している。そして、自己満足に陥ることのないよう、時間軸の考え方を単に「職位に就く」ことから「職位において活躍する」ことへとシフトしていくだろう。レースにおいて金メダルを獲得しようと思ったら、スタートダッシュを切らない者はいないだろう。
調査手法
当社は、「CEOライフサイクルプロジェクト1」の一環として、今世紀始めからのS&P500社の全CEO(n=1,330)の業績とそのCEO就任への軌跡を分析した(創業者を除く)。また、100名以上のCEO候補が受けた育成アドバイスをメタ分析し、CEO就任までの軌跡に見られる職位別の傾向を特定した。最後に、これらの企業の取締役およびCEOに、CEO承継に関する経験・洞察についてインタビューを実施した。この目的は、才能あるリーダーのCEO候補からの排除ではなく、逆に、こうしたトップタレントのCEO就任までの軌跡の複雑性に光を当て、CEOを目指す人々に、必要な能力・経験の習得方法について最前線の情報を届けたいというものである。
1Citrin, J.M., Hildebrand, C.A. & Stark, R.J. (2019). The CEO Life Cycle: A Study of Performance over Time. Harvard
Business Review. 参考文献 Retrieved from https://www.spencerstuart.com/research-and-insight/harvard-business-review-the-ceo-life-cycle-a-study-of-performance