1. 取締役会の役割を「選任」から「支援」へと切り替える
新たなCEOを選任した後、取締役会に求められる役割は大きく変化する。この局面では、取締役会は「次期CEOとしての適任者を選ぶこと」から「選任したCEOの成功を支援すること」へと、速やかに役割を転換する必要がある。これは取締役会の姿勢と行動との両面における重要な転換であり、特に負荷の大きい選考プロセスを経た直後であればなおさら、継続的かつ意識的な取り組みが求められる。
また、役割の転換はできるだけ迅速に行う必要がある。当社はこれまで、「移行のトラウマ」とも呼ぶ現象を数多く目にしてきた。これは、CEOへの就任が職務上のみならず、CEO本人の私生活にも大きな変化をもたらすことを指している。例えば、新しい地域への転居、家族の生活環境の変化、新たな職責への適応、健康管理やフィットネスに至るまでのあらゆるサポート基盤の構築など、多くの変化への対応が求められる。キャリアの転機に伴うこのような負担は、外部登用者だけでなく内部昇格者にも等しく当てはまり、皮肉なことに、内部昇格者の方がより大きなストレスを抱える場合もある。内部昇格の新任CEOの場合、これまでの同僚との関係を再構築しなければならず、その中にはCEOポストを争った候補者が含まれていることも少なくないからだ。
しかし多くの場合、取締役はこうした負担の大きさを過小評価する傾向があり、結果的に新任CEOがこれらの課題を取締役会に相談することをためらうケースも見られる。そのため、新任CEOの負担を軽減するとともにCEOを支援する姿勢を示すうえでは、取締役会自らが積極的に働きかけることが重要となる。こうした対話は、取締役会がCEOとの信頼関係を構築する有意義な機会にもつながる。
取締役会への問いかけ
- 選考プロセスやデューデリジェンスを通じて得られた情報を踏まえ、新任CEOにはどのような支援が必要と考えられるか。
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CEOの成功を実現するために、どのような支援体制の構築や外部アドバイザーの活用が必要と考えられるか。
2. 各取締役と新任CEOとの個別の関係構築を進める
各取締役と新任CEOとの間で強固な関係を築くことも、取締役会にとって極めて重要な事項である。それぞれの取締役は、新任CEOの人となりや考え方、そして経営者としての資質を理解するために十分な時間を確保すべきであり、このような個別の関係性こそが、取締役会とCEOの信頼を構築する土台となる。多くの取締役は、CEOと良好な関係を築いていると考えがちだが、実際にはその関係性は想像以上に脆弱であり、CEO就任後2〜3年が経過してもなお、十分な信頼が構築されていないケースも少なくない。
そのため、取締役会はCEO選任後のオンボーディングの一環として、新任CEOが各取締役との関係構築を早期に進められるように支援すべきである。理想的には、CEO就任後30日以内に各取締役との個別面談を実施し、相互理解を深めながら関係を構築することが望ましい。さらにその後、CEOと各取締役が対面で深く対話する機会を設け、互いの価値観や動機、考え方への理解を深めることが期待される。このような対話の場は、取締役にとっては
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CEOは新たな役割にどのように適応しようとしているのか
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CEOは取締役会に何を期待しているのか
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CEOはどのような支援を必要としているのか
を把握する機会となり、新任CEOにとっては、
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各取締役がどの程度深く取締役会に関与しているのか
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各取締役はどのような専門性、関心領域を持っているのか
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各取締役は、自身のキャリアにおいて当該取締役会での活動がどんな意味を持つと捉えているのか
を把握する機会となる。
新任CEO就任初期に実施すべきその他の重要な取り組みとして、社外取締役を代表して取締役会議長や筆頭独立社外取締役が新任CEOと連携し、初回の取締役会における期待値をすり合わせることも挙げられる。例えば、
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就任直後のCEOに対し、通常通りの取締役会運営を期待するのか
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取締役会ではどのように役割分担するのか
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取締役会に向けてCEOはどのような準備を行うべきか
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社外取締役はどのようなサポートを提供することできるか
といった点を事前に明確にすることが重要である。このような取り組みは、新任CEOの不安や負担を軽減するだけでなく信頼関係を構築するうえで欠かせないが、十分に実践できている取締役会は決して多くない。
社外取締役を代表する取締役とCEOとの関係において特に重要なことは、透明性と信頼に基づいた「サプライズのない文化」を構築することである。同取締役は、取締役会を代表して各取締役のフィードバックや懸念を迅速かつ直接CEOに伝えることで、この文化を醸成する役割を担う。高い成果を実現する企業では、CEOが取締役会からの期待値を明確に理解しているだけでなく、取締役会とCEOの橋渡し役が率直なフィードバックを提供し、取締役会の懸念事項を適切に伝達してくれるという確かな信頼が存在する。
CEO就任初期は、エグゼクティブ・セッション(社外取締役のみで構成する会議体)の運営ルールを整理する絶好のタイミングでもある。例えば、「エグゼクティブ・セッションは定例会議として実施するか、特定の議題が発生した場合のみ実施するか」といった基本ルールを明確にすることで、新任CEOの不安を軽減することができる。
取締役会への問いかけ
- 各取締役は、新任CEOとの関係構築に向けた基盤づくりをどのように始めるべきか。
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新任CEOが初回の取締役会をより生産的かつ有意義に進められるよう、取締役会としてどのような支援ができるか。
- 社外取締役を代表する取締役は、CEOとの間で率直な対話や信頼関係が生まれる環境を整えられているか。また、それぞれの役割や意思決定責任は明確か。
3. 企業戦略と必要な変革について、取締役会が十分な議論を行えるよう準備する
新任CEOの選任プロセスは、取締役会にとって自社の業界での立ち位置や戦略的方向性を再評価する貴重な機会でもある。そのため、取締役会はCEO選任プロセスを通じ、組織がどの方向へ進むべきか、そしてその方向性に進むために新任CEOには何が求められるかを主体的に問いかける必要がある。もちろん、CEO選任プロセスが戦略の全面的なレビューの場になるわけではないが、少なくとも組織としての大まかな方向性を確認し、取締役会として譲れない前提や制約、CEOが戦略を検討する際のガイドラインを明確にしておく必要がある。
CEOが選任された後は、取締役会はできるだけ早い段階で、事業の現状に関する初期的な見立てを新任CEOから共有してもらうべきである。この取り組みを通じ、取締役会とCEOとの間で具体的な共通認識を形成することができる。そのうえで、CEO就任後6〜9か月程度を目途にオフサイトを実施し、より具体的な戦略の方向性とその方向性を支える短期・長期の目標について認識を合わせることが望ましい。その際、事業運営上の課題や優先事項に加え、戦略を実行するために必要な経営チーム・人材、さらには目標達成に向けて求められる投資や変革についても幅広く検討すべきである。
当社の調査では、取締役会がCEOにどのような支援を提供すべきかについて、CEOと取締役会の間で概ね認識が一致していることが明らかになった。具体的には、戦略に関する議論の相手としての支援、関連分野における専門知識の提供、事業環境の変化を踏まえた経営陣との積極的な対話などが重要だと考えられている。一方で同調査では、取締役が「十分なサポートを提供できている」と考える割合とCEOが「実際に支援を受けている」と感じる割合には、20ポイントものギャップが存在することも判明した。これは、多くの企業において、取締役会とCEOとの協働関係の構築に依然改善の余地があることを示している。
取締役会への問いかけ
- CEOが描くビジョンは野心的かつ実現可能なものとなっているか。
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CEOのプランは組織の現状を踏まえながらも未来に向けた変革や挑戦を含んだものになっているか。
- 戦略目標の進捗を評価するために、短期・中期・長期それぞれでどのような指標を設定すべきか。
4. タイムリーかつ実効性のある評価を実施する
新任CEOは就任直後に市場から好意的な評価を受けやすいことから、取締役会は、初年度の業績が必ずしもCEO自身の成果によるものとは限らないことを認識しておく必要がある。これはいわゆる「ハロー効果」と呼ばれるもので、その影響は非常に大きい。当社が関わってきた事例においても、取締役会が抱いている懸念やフィードバックがCEOに十分に共有されないまま時間が経過し、気付いた時には問題が深刻化しているケースが少なくない。
そのため、新任CEOに対して体系的なフィードバックを行う仕組みを設けることが取締役会にとって肝要となる。それにより、「何を達成したか(結果)」と「どう達成したか(行動)」を切り分けて評価できるようになる。その第一歩として、取締役会は今後3年間でCEOがどのような戦略を推進しようとしているのか、その実現に向けてどのような行動やリーダーシップを発揮しようとしているのかについて十分に理解する必要がある。
また、取締役会による評価や説明責任、報酬設計についてもこれらの考え方を反映させるべきある。その際は、財務パフォーマンスや事業目標の達成度といった定量的な成果指標だけでなく、期待される行動や取り組みを評価する定性的な指標も考慮する必要がある。例えば、従業員エンゲージメントスコアや、組織・経営チームに関する意思決定のスピード、経営陣を対象とした360度フィードバックの結果などが挙げられる。なお、報酬は重要な関心事項となりうるため、報酬制度がCEOや主要経営陣の成果創出意欲を損なっていないか、取締役会は継続的に確認する必要がある。
さらに、取締役会は評価指標だけでなく、新任CEOが課題を抱え積極的な関与や支援を必要としている兆候にも注意を払う必要がある。例えば、以下のような状況がそうした兆候となりうる。
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短期・長期戦略の方向性が不明確である
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経営チーム・組織体制に関する人事判断が遅れ、意思決定が定まらない
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組織が戦略や優先事項を理解できておらず、混乱が生じている
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業績の良し悪しに関わらず、戦略・意思決定と結果との関係を十分に説明できていない
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本質的な課題から逸れた行動が見られる
- 突発的なM&Aの検討
- 優先事項と整合しない場当たり的な施策
取締役会への問いかけ
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CEO評価プロセスの公平性と透明性をどのように担保できるか。
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CEOを評価する際に、財務指標以外にどのような非財務指標を組み込むべきか。また、それらに対する期待値を年間を通じてどのように伝えていくべきか。
5. 取締役会の構成、リーダーシップ、ガバナンス体制に変更が必要か評価する
新任CEOの選任は、取締役会が自らを振り返り、運営体制を見直すことができる貴重な機会である。しかし、CEO就任後にそうした振り返りを行う取締役会は決して多くない。
見直しを進めるうえで最優先事項となるのは、取締役会の構成である。新任CEOの就任によって新しい経験やケイパビリティが加わるため、CEOが取締役会に求める支援内容も従来とは異なる可能性がある。例えば、CEO未経験の新任CEOであれば、直近でCEOを務めていた取締役や、取締役会での経験が豊富な社外取締役がいることが大きな支えとなるかもしれない。このように、指名・ガバナンス委員会は新任CEOの選任を契機として、取締役会の構成の見直しに取り組むべきである。その際、新たな戦略の方向性を踏まえつつ支援が必要なスキル・経験についてCEOから意見を収集するとともに、取締役会自体の承継計画も改めて検討することが望ましい。
さらに、取締役会は新任CEOのリーダーシップスタイルについても注意を払う必要がある。当社が関わった事例の中には、社外取締役を代表する取締役と新任CEOのスタイルや性格が上手く噛み合わないケースも見られた。こうした状況への対応は容易ではない一方で、問題を放置したまま良い結果につながった例はほとんど見られない。新任CEOとの関係が上手く機能していない兆候を取締役会が察知した際には、早期の介入や体制の見直しを検討すべきである。
加えて、取締役会は経営幹部の採用・選考プロセスへの関与についてもCEOと認識を合わせておく必要がある。特に、取締役会との接点が多いポジションであれば、取締役が直接面接に関与することも少なくない。例えば、監査委員長がCFOや内部監査責任者の候補者を面接し、指名・ガバナンス委員長が法務責任者候補を、報酬委員長がCHRO候補を面接するといったケースもある。複数の取締役が選考プロセスに参加し、多面的な視点から候補者を評価することも有益である。
取締役会への問いかけ
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今後の戦略および新CEOの強み・課題を踏まえ、取締役会のスキルマトリクスをどのように見直すべきか。
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取締役会の承継計画について、取締役の交代ペースや入れ替えを含めて変更が必要か。
- 取締役会のリーダーシップ体制に見直しが必要か。
- 取締役会の実効性向上に向けて、検討すべきガバナンス上の変更点はあるか。
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年次の取締役会実効性評価をどのように改善・強化できるか。
結論
取締役会は新任CEOを選任した時点で役割を果たしたと考えがちであるが、実際にはCEOの交代は新たな局面の始まりに過ぎない。CEO就任初年度は、CEO本人だけでなく取締役会や企業にとっても、極めて重要でかつリスクの高い移行期間である。ある取締役会議長は、「新任CEOにとっては全てが初めての経験で、彼らは想像以上に大きな負荷を抱えています。だからこそ、取締役会がしっかりとした移行プランを準備し、メンターや相談相手として寄り添うことが極めて重要です。」と語っている。
新任CEOの移行支援を体系的に支援・監督している取締役会は多くない。しかし、新任CEOが直面する課題を正しく理解し、透明性を備えた信頼関係を築いて戦略や期待成果の認識を共有するとともに、取締役会の構成やガバナンス体制を定期的に見直すことで、新任CEOの成功確率を大きく高めることができる。