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CEO就任当初の24カ月に失敗を招く5つの落とし穴

CEOはいかにして重大な失敗を回避できるか
2026年8月
| 6 min read

概要

  • CEOが就任初年度に取るアクションは、会社が長期的に成功を収めるための基盤を築き、また、株主総利回り(TSR)の最大化に寄与する。
  • しかし一方で、約40%のCEOが就任2年目までに取締役会からの信頼を失っている。
  • 当社は、CEOおよび取締役会への豊富な支援経験を通じて、多くのCEOが陥る「5つの典型的な落とし穴」の存在を明らかにした。
  • 本稿ではこれらについて解説するとともに、落とし穴を回避するための示唆を提供する。

CEOへの就任は、ビジネスリーダーにとって最も難易度の高いリーダーシップの転換の一つとされており、新任CEOは極めて大きな責任を背負うことになる。また、CEOの意思決定は企業価値に大きな影響を与え、その影響は従業員の生活にも波及する。一方で、市場はCEOが信頼を確立するための十分な時間を与えてくれるわけではない。たとえ入念な準備や豊富な経営経験があったとしても、CEOの約40%が就任後2年以内に取締役会の信頼を失うとされている。このように、CEO就任当初は企業へ大きな影響を与える重要な期間であり、就任当初における判断や対応の誤りは企業の推進力、人材、そして企業価値そのものを損なう可能性がある。

当社はCEOのライフサイクルや優れたCEOのパフォーマンスを左右する要因について、これまで多くの知見を蓄積してきた。今日、取締役会はより短期での成果を求めるようになってきている。CEOの在任期間は短期化し、アクティビストからの監視が一層強まるとともに、パフォーマンスに対する評価もより短期間で定まる傾向にある。当社はこれまで数多くのCEOおよび取締役会と協働してきた経験に基づき、CEOが陥りがちな5つの典型的な失敗のパターンとその回避策を整理した。

1. 経営人材(C-Suite)に関する意思決定の遅れ

概要

新任CEOは、取締役会や従業員との関係を構築している間に生じる混乱を懸念するあまり、トップチーム再編の着手に時間をかけすぎてしまう傾向がある。また、戦略が十分に定まっていないことを理由に、新しい企業文化やオペレーティングリズムの確立を先送りにしてしまう傾向もある。

ケーススタディ :ロッコ(金融サービス業CEO)

ロッコは就任時、経営陣の主要メンバー2名に懸念を抱いていた。いずれのメンバーも期待水準を下回っており、COOに関してはビジョンに十分に賛同していなかった。このような状況にも関わらずロッコは財務状況および戦略の理解を優先して、重要人材に関する判断を後回しにしたまま躊躇していた。CEO就任7か月後には株主対応の問題が発生してその対応に追われたこともあり、就任10か月後に当初の問題に立ち返った時には既に業績が悪化し、COOの抵抗も強まっていた。最終的に後任2名の採用には成功したものの、意思決定の遅れにより、戦略アジェンダを推進するうえで必要な時間と勢いが失われてしまった。その後の4か月間は大きな戦略転換に踏み込むことができず、オペレーションチームと共に現場レベルでの課題対応や責任の明確化に注力せざるをえなくなった。企業文化の醸成やオペレーティングリズムの見直しに着手する機会を逸した結果、トップチームの行動の是正およびビジョンに対する一体感の醸成までに半年程度を要することとなった。

新任CEOはいかにして優れたトップチームを構築すべきか?

優れたCEOは、適切なチーム体制を構築し、メンバー間の関係性を強化して運営リズムを確立することに注力している。就任直後の数か月は組織が方向性を定める期間であり、この期間に形成された行動様式は定着しやすい。したがって、リーダーは早期の段階でアクションを起こし、状況に応じて柔軟に修正していくことが求められる。具体的には、以下の対応が有効である。

  • CEOが全てを一人で担うことはできないため、ビジョンの実現に必要な能力・リソースを把握し、適切な人材を配置する。
  • 個別機能の最適化ではなく組織全体の成果を最優先として、組織的に機能する経営チームを構築する。また、取締役の意見に留意しつつも、日常業務への関与が限定的であることを踏まえて過度に影響を受けないようにする。
  • チームが一体となって事業を推進できるよう、行動規範や運営リズムを整備する。これにより、CEOはより高次の意思決定に集中できるようになる。

強固なトップチームは、その後の活動全ての基盤となる。ここで重要なのは、「実行力」、「組織のキャパシティ」、「価値創出までのスピード」である。
新任CEOのための経営チームマネジメントに関する詳細については「 Setting up World-Class Leadership Teams」を参照。 .

2. 新しいビジョンに対する推進力不足

概要

新任CEOは就任当初、就任に対する期待感や既存戦略の恩恵を背景に追い風を受けることが多い。しかし、早期の段階で成果を生み出せなければ徐々に期待は薄れてしまい、組織が最も変革を受け入れやすいタイミングで戦略的な推進力を高める機会を逃してしまう。また、多くのCEOは戦略を精緻化しようとするあまり、「分析麻痺」に陥り、短期的な意思決定を先延ばしにしてしまう。

ケーススタディ:ジョディ(製造業の中堅企業CEO)

ジョディは業界に関する深い知見と明確なオペレーションビジョンを持って就任したが、企業戦略の分析に時間をかける中で、勢いを生み出して戦略を磨くための初動を打てなかった。就任後最初の6か月間は業績が好調であったが、これは主に前任者が策定した戦略によるものであり、1年目の終盤にかけて成長率は鈍化し始めた。1年が経過した頃には取締役会はジョディの事業推進力に疑問を持ち、より大胆な戦略を求めるようになった。ジョディのビジョン自体は妥当なものだったが、新しい戦略の成功を裏付ける実績がなく、市場拡大に向けた参入オプションを検証する機会も逃していたため、結果的に取締役会の支持を得る上で苦戦を強いられる状況となってしまった。

新任CEOはいかにして戦略的方向性を打ち出すべきか?

成功するCEOは、就任当初に自社の戦略的方向性を明確に打ち出し、2~3つの具体的な施策を組み合わせることで推進力を生み出している。また、彼らは自身が十分な情報を持っておらず、戦略も未完成であるということ理解しているため、行動しながら学び、戦略を洗練させていくことができる。具体的には、以下の対応が有効である。

  • 就任後6ヶ月以内に戦略の「ドラフト」を提示する。オペレーション改善、製品戦略、市場の転換など、推進力を生み出し、自身のリーダーシップスタイルを示す施策を実行する。
  • 戦略を継続的に洗練させる。就任当初の迅速な行動は信頼を生み、また、戦略を洗練させるための時間を確保するためにも有効である。CEOは就任後の数か月において取締役会からの信頼と支援を得やすく、この期間に施策を磨くことができる。
  • CEOの就任2年目では、戦略の再構築および取締役会とのアラインメントが重要となる。成功するCEOは初年度にリーダーとして象徴的な成果・実績を出し、その成果を基盤としてより抜本的な変革を推進する中長期戦略を確立していく。

ここで重要なのは「早期の成果創出」と「戦略の柔軟性」である。新任CEOは十分な仮説検証を行わないまま拙速に行動するリスクと、全てを把握しようとするあまり意思決定が遅れてしまうリスクとのバランスを取る必要がある。適切な方向性のもと2〜3つの施策を実行することで、勢いを生み出すとともに学びを得ていくことが重要である。

3. 組織活性化の軽視

概要

多くのCEOは直属の経営チーム(C-Suite)のみに注力し、トップ層での合意は組織全体に自然と波及すると考えている。しかし、実際の変革は顧客・現場・企業文化に最も近いミドルマネジメント層や、CEOの2階層下の「エンジンルーム」とも呼ばれるリーダー層に大きく依存している。これらの層のコミットメントが得られないと変革の推進力や現場からのフィードバックが欠落してしまい、結果的に戦略は停滞してしまう。また、組織文化の刷新や部門横断プロセスの定着には多大な労力を要するが、その難易度は過小評価されがちであり、単にタウンホールで方針を伝えるだけでは不十分である。

ケーススタディ:ジュリアン(消費財業界CEO)

新任CEOのジュリアンは、高付加価値市場にシフトして大規模で収益性の高い顧客を獲得するという明確な戦略を打ち出した。当戦略について取締役会および直属チームと合意を得た後、ジュリアンは事業拡大に向けて2つの新たなプログラムを立ち上げた。これらはいずれも大口顧客に対してより手厚いサポートの提供が必要となるものだった。新しいプログラムは初期段階では顧客からの評価も高く、市場からも好意的な反応を得ていたものの、全社展開するタイミングで停滞した。ジュリアンはミドルマネジメント層が依然としてコスト重視の思考に囚われ、大口顧客の対応に必要な行動様式を体現できていないことに驚くとともに失望した。結果的に、就任2年目に入る頃には戦略の推進が滞ってしまった。

新任CEOはいかにして組織全体を活性化すべきか?

現代の競争環境を勝ち抜いている企業は、C-Suiteの1〜2階層下に位置するリーダーを意図的に巻き込んで権限委譲を進めるとともに、これらのリーダーを個別の存在ではなく、組織全体の駆動力として機能させている。これらのリーダーは企業文化を体現する存在であると同時に変革の推進役でもあり、戦略の実行を加速させる役割も担う。また、進捗を把握するうえで不可欠なフィードバック機能も担っている。具体的には、以下の対応が有効である。

  • 戦略を実行するために必要な行動規範を明確に理解し、そのうえで中核となるミドルマネジメント層を早期に特定して巻き込み、新しい行動を定着させるための仕組みを構築する。
  • 現状の企業文化が戦略をどのように支えているか、または阻害しているかを評価し、今後必要な組織文化を明確にするとともにリーダー自身がどのように変革を体現していくかを示す。
  • これらのリーダー層が与えるビジネスインパクトを定量的に把握する(例:新しい行動規範の定着度、業務改善、リーダーのパフォーマンスやエンゲージメント向上等)。ミドルマネジメント層の有効性とビジネスインパクトを結び付けてモニタリングすることで変革を阻む要因を特定できる。

ここで重要なのは「実行力」、「価値創出までのスピード」である。組織活性化や文化に関する詳細については「Is Your Business Operating on All Cylinders?」を参照。

4. ステークホルダー(特に取締役会)への対応不全

概要

取締役会は多様なメンバーで構成されており、また、取締役からのフィードバックも往々にして間接的である。そのため、新任CEOは沈黙を同意と誤解したり、個々の取締役との関係構築が不十分になったりすることがある。こうした課題は、組織の推進力、リーダーシップ、戦略に対する期待が形成されるCEO就任後6〜12か月において特に重要となる。この時期に生じた認識のずれや懸念が放置されるとやがて固定化され、その後の解消が難しくなる。

ケーススタディ:ジャニーン(変革を進める金融サービス企業CEO)

ジャニーンがCEOに就任した当初、取締役会は事業の活性化および変革の推進を期待してその就任を歓迎していた。ジャニーン自身も明確な方向性とスピード感を持って職務に臨んだが、次第にコミュニケーションのあり方や変革推進のスピードについて取締役会の期待とズレがあることが明らかになった。特に、前任CEOの慎重な進め方に慣れていた一部の取締役はジャニーンの進め方に対して懸念を抱き始めていた。しかし、こうした初期の懸念は明確に共有されることなく、ジャニーンはスピード感を重視してそのまま施策を推進していた。ジャニーンは自身のビジョンについては取締役会に説明していたが、ある製品ラインの変更について当戦略を提唱していた取締役に十分な共有を行わず、その取締役は同僚を通じて変更の事実を知ることとなった。さらに、外部採用者のオファー条件を承認するために急遽行った報酬委員会を経て、ある主要な取締役が反発を強めることとなった。加えて、従業員からのフィードバックの解釈の誤りや軽微な問題が過度に拡大解釈され、結果として変革に対する支持が弱まってしまった。

新任CEOはいかにして取締役会からの支持を構築・維持すべきか?

CEOにとって重要なのは、取締役会の文化や意思決定スタイルを理解し、取締役との個人的関係と信頼を構築することである。取締役は客観的なデータに加え、新任CEOとの実務的な関わりを通じて徐々に信頼を深めていく傾向があるため、単に時間を共にするだけでなく、自身が注力している事業の重要なポイントについて透明性をもって共有するとともに、取締役がどの領域を深く掘り下げたいのかを理解することが重要である。具体的には、以下の対応が有効である。

  • 各取締役との1 on 1の機会を設ける(可能であれば各取締役の拠点で実施する)。取締役が重視しているテーマや懸念事項、議論したいと考えているポイントを理解し、それらを取締役会議長と共有したうえでボードアジェンダに反映する。
  • 取締役会議長との強固な信頼関係を構築し、積極的にフィードバックを求める。また、議長と連携しながら、取締役を意見交換の相手として有効活用できる仕組みを整える。さらに、自身に求められる成果や、取締役会とのコミュニケーションの頻度・内容について明確にする(特に前任CEOが取締役として留任している場合に重要)。
  • 取締役会の年次セルフレビュー等を通じて、取締役会による定期的な振り返りの場を設ける。目的は、取締役会とCEOが定期的に立ち止まり、何がうまく機能しているのか、何を改善すべきかを議論するための場を確保することである。

詳細は新任CEOに対する取締役会の支援のあり方について解説した「The CEO’s First Year Isn’t a Victory Lap. It’s the Board’s Next Test」を参照。

5. 個人としての変化・適応の過小評価

概要

CEOという役割は極めて負担が大きく、移行期においては、多くの企業が重要な意思決定や対外的な関係構築をCEOに集中させがちである。しかし、これらの負担を意図的にマネジメントしなければCEOの時間が圧迫され、プレッシャーが増幅される悪循環にはまってしまう。また、多くのCEOは外部からの高い要求や、孤独感、率直なフィードバックの不足といった状態に十分な準備ができていない。特に内部昇格したCEOの場合、日常業務から離れきれず、経営チームに対して十分な権限委譲ができていない傾向にある。その結果、新しいステークホルダーへの対応やCEOとしての本来の役割に十分な時間を割くことができなくなってしまう。

ケーススタディ:アルジュン(ソフトウェア企業CEO)

CEOに内部昇格したアルジュンは、会社に関する深い知識と取締役会との良好な関係を有していた。経営チームやステークホルダーからの信頼も得て、新しい戦略に組織を巻き込むこともできていた。就任1年目の終わりには事業は順調に推移し、新製品も市場で一定の評価を得始めていた。一方で、アルジュン自身は極度に疲弊していた。C-suiteメンバーと現場の業務にも深く関与するとともに、戦略策定、主要なステークホルダーの対応、さらには取締役会対応までを並行して担っていた。また、CEOとしての孤独感に加えて率直なフィードバックが不足している状況にも直面し、当初の想定以上の負荷を感じていた。その影響は投資家対応にも現れ、実績は良好であるにもかかわらず、自信や統制力に欠ける印象を与えてしまっていた。CEOという役割の重圧と継続的な要求が次第にアルジュンの負担となっていた。

新任CEOはいかにしてレジリエンスを高め、自信を築くべきか?

CEOには常に注目が集まるため、様々なステークホルダー(経営チーム、組織全体、取締役会、パートナー、投資家、顧客)に対して、日々どのように振舞うかが極めて重要となる。特に、重要な局面に十分なエネルギーをもって臨み、しっかりと存在感を発揮することが求められる。時間の投資先を見極めることは重要である一方で、多くの新任CEOは過剰に多くのリクエストを引き受けてしまう傾向にある。具体的には、以下の対応が有効である。

  • 期待の大きさと孤独感がある中でこれらを上手くハンドリングすることは容易ではないため、CEOに就任した初期段階(可能であれば就任前)に支援体制を構築することが重要である。
  • 支援体制には以下のような要素が含まれる。
    • コーチの活用
    • 信頼できるアドバイザーの確保
    • 体系的なフィードバックの収集
    • 自身にしか担えない高度な思考や意思決定に集中する時間の確保
  • 個人のレジリエンスを最優先事項と位置づける。CEOのエネルギー、思考の明確さ、自信は組織全体の雰囲気や方向性を形作る。CEOの役割は断続的なスプリントを繰り返す「長距離マラソン」にも例えられるため、自身のエネルギーを高める要因と消耗させる要因を理解し、それらを適切にマネジメントすることが重要となる。

CEOに就任して最初の18カ月はまさに試練の期間である。成功には俊敏性、規律、そして徹底した集中が求められる。ここで重要なのは、「自信」、「思考の明確さ」、「レジリエンス」である。また、就任初年度において、取締役会は軌道修正には比較的寛容である一方、推進が停滞したり、方向性が不明瞭であったりする場合には厳しく評価する傾向にある。CEOが自身のエネルギーや業務ペースをどのようにマネジメントすべきかについては、「Four ways CEOs can preserve their emotional energy」を参照。

新任CEOは成功のために何をすべきか?

CEOが失敗に陥る主な原因は、誤った戦略を選択してしまうことではなく、就任当初の意思決定を通じて組織の推進力と信頼を築けないことにある。その結果、組織やステークホルダーの受容性が最も高いタイミングにおいて、学習と実行のスピードが停滞してしまう。

当社のリサーチでは、戦略・人材・企業文化・ガバナンス・自己マネジメントに対して主体的かつ継続的に取り組むCEOは、株主総利回り(TSR)において同業他社を上回る傾向にあることを示している。新任CEOは、次の5つのポイントに注力したい。

  • 経営チーム(C-Suite)を構築してアラインメントをとり、エンゲージメントを高める。
  • 2〜3の「象徴的な施策」を立ち上げ、実行する。
  • 経営チームにとどまらず、企業文化や顧客体験を実際に担うリーダー層まで組織を活性化させる。
  • 取締役会およびステークホルダーと積極的に関係構築する。
  • 自分自身のエネルギーを意図的にマネジメントする。

CEO就任当初の落とし穴を回避することは、単に移行期を乗り切るだけでなく、自身と企業を持続的な価値創出へと導くための重要なステップとなる。